雲母書房
書籍詳細

ライム

しばらくお待ちください。
長崎夏海 【著】
1,400円(税込:1,512円)
文学
A5変 / 上製
208頁
2006年11月30日
978-4-87672-218-1
4-87672-218-8


成長か。 あきらめて、長いものにまかれて、うまくわたっていくのが成長かよ。自分の人生を強引に変えられても、黙っていなきゃいけないのか。

ライム
1 雨あがり
2 風
3 夜
4 雑踏
5 空
6 コンクリートvoice

児童文学作家評者:石崎洋司 (2007年2月26日 産経新聞)
長崎夏海は日本児童文学界で最も危険な作家である。少なくとも、本書『ライム』を出版してから今までのところは間違いなく。
 主人公は高校受験を控えて「現実」に直面せざるを得ない女の子。しかし、かつての不良仲間に「成長しないな、おまえ」といわれるほど、じたばたしている。
 父親の不倫、家庭内不和、見えない目標、生きているって何……。
 こう書くと、したり顔の大人たちの中には「また中2病の物語か」と断ずる向きもいそうだ。中2病とは、思春期特有の大人に対する嫌悪とそこから生まれる「痛い」エピソードの数々ということらしい。
 だが大人たちによる中2病の定義を聞くにつけ、「成長は善」という前提がゆるぎなく存在しているのを知り、正直、気分が悪くなった。
 一般の大人は仕方あるまい。だが「児童文学者」にも未だそんな「上から目線」の持ち主が多いのには「むかつく」。
 もちろん長崎夏海は、読者になにかを教えようなんてこれっぽっちも思わない。主人公は、ビリヤードの玉のようにさまざまな出来事や人にぶつかり、そのたびに彼女の言葉がとりとめなく語られていく。そして、そのはしばしに「ああ、わかる!」と、思わずその場にしゃがみこんでしまうような、1行、一言が表れる。それだけだ。
 伏線をちりばめては見事に回収し、ラストは涙……。そんなヤングアダルト文学にありがちなドラマツルギーを使うほど長崎はヤワな作家じゃないのだ。
 父母の喧嘩を隣室で聞いている「わたし」はライムを想像する。「ライムが一切れ、ライムが二切れ。青く透き通ったカプセルが、私をつつむ。いつものように父が出ていき、母が片づけをはじめる。やっと、風鈴の音が耳にはいる。OK,世界はまだ終わらない」
 こういう書き方、梨屋アリエもするなぁと『でりばりぃAge』を読み返したら「ナツミは孤高の人だ。ナツミは他人の色に染まらない」という部分を見つけて驚いた。実際、今の長崎は孤高だ。だからこそ『ライム』は書けたはずだ。
 『でりばりぃAge』には雑踏を歩きながら世界をぶち壊す夢を見るくだりもある。そして「わたし」はいう。「空想するのは自由」と。
 それならと、空想してみた。長崎と梨屋が「児童文学者たち」に通りがかりのびんたをかましているところを……。ライムのように爽快だった。




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