雲母書房
書籍詳細

私の声が聞こえますか
認知症がある人とのコミュニケーションの可能性を探る

Malcom Goldsmith 【著】、高橋誠一 【監訳】、寺田真理子 【訳】
2,500円(税込:2,700円)
痴呆/認知症
四六判 / 並製
336頁
2008年11月25日
978-4-87672-259-4
4-87672-259-5


著者はスターリン大学の認知症サービス開発センターの研究員として、本人と介護者に質問表を送ってサービスについての意見を聞いています。それらの回答や文献から引用しながら、認知症がある人が落ち着くための「時間とペースの感覚」「環境」「非言語コミュニケーション」などについて、丁寧な考察を加えていく。


第1章 こだまはゆっくりと返ってくる
認知症とは何なのでしょうか。認知症があってもコミュニケーションをとることはどの程度可能なのでしょうか。

第2章 サービスについての意見を聞く
認知症がある人に、自分が利用しているサービスについての意見を聞くことは可能なのでしょうか。

第3章 誰かそこにいるの?
認知症への医学的アプローチと社会的アプローチの関係、そして認知症という経験について探求します。

第4章 人はそれぞれ異なる方法で影響を受ける
人の性格はそれぞれ異なるので、認知症による影響もまたそれぞれ異なります。認知症ということでひとくくりにしない、パーソンセンタードなケアが求められます。

第5章 コミュニケーションは可能
コミュニケーションの可能性を示す二つの長期的な事例を検討し、より良いコミュニケーションを可能にする方法を考察します。

第6章 力を奪うこと
認知症がある人は、人々の態度によって力を奪われ、無力感を学習してしまいます。しかし、多くの方法によって力を与えることができるのです。

第7章 時間とペースの感覚
認知症がある人とのコミュニケーションでは、ゆっくりと相手のペースに合わせる必要があります。時間のプレッシャーがある中でこれにどう対応するかを模索します。

第8章 ライフストーリーの価値
ライフストーリーを活用して認知症がある人の人生を理解することで、コミュニケーションを容易にします。

第9章 環境の影響
環境がコミュニケーションに影響を与えることを認識し、障害となるものを取り除きます。

第10章 非言語コミュニケーション
非言語コミュニケーションの重要性を認識し、スキンシップや音楽などの活用への試みを考察します。

第11章 挑戦的な行動(チャレンジング・ビヘイビア)
挑戦的な行動をコミュニケーションの試みとして捉え、理解し、対応することを学びます。

第12章 グループワーク
グループワークがコミュニケーションに与える効果が今後期待されています。

第13章 告知すべきか、せざるべきかーそれが問題なのか
認知症の告知への賛成論と反対論、そして告知にまつわる諸問題を検討します。

第14章 内省的結論
各章のまとめと総括。

特別養護老人ホーム光の苑評者:武原光志 (2009年5月1日 「日本リハビリテーション病院・施設協会」機関誌5月号)
本書は「英国の代表的な認知症ケアの研究機関であるスターリング大学の認知症サービス開発センターの研究員」であるM.ゴールドスミス氏の『Hearing the Voice of People with Dementia』の翻訳書である。
「私の声が聞こえますか」と訳されているが、認知症ケアの現場に身をおく立場から言えば「私の声が聞こえていますか」であろう。「認知症がある人とのコミュニケーションの可能性を探る」とサブタイトルが付けられているように、著者は認知症を患う人々とのインタビューや介護する家族、ケアに従事する人々に対する調査から「認知症がある人とのコミュニケーションの可能性」を探り、「認知症を患ってもコミュニケーションは可能である」ことを論証している。すなわち、「認知症によって記憶障害や集中力の低下、言語の問題が生じるが、だからといってコミュニケーションがとれないわけではない。もちろん、コミュニケーションをとるためには、より多くのケアが必要となり、当初予見したよりも長い時間がかかるかもしれないが、コミュニケーションは可能である。実際、彼らは、自分の声を聴いてもらいたいと願っている。彼らの声を聞き取るためには、そのためのスキルを獲得する必要がある」と説いている。
認知症を病む人々とのコミュニケーションは可能であるという著者の確信は、認知症を患っても適切な援助と支援があればその人らしさを取り戻すことができる、という認知症者に対する深い洞察に基づいている。また、認知症を医学的に分析・把握するだけでなく、他方で、「社会的文脈」で捉えることの重要性も説いている。
本書で紹介されている文献は1980年代の後半から1990年代にかけてのものであるが、英国では、その頃からこのような研究プロジェクトが実施されていたということである。10数年のタイムラグは大きいが、本書を読むことによって、認知症に関する医学的な考察を深めると同時に、ライフストリーに収斂される「社会的文脈」でその人の生き方を捉えること、そして、認知症を病む人々の心に必要なケアを届けるためにもコミュニケーション能力を高め、スキルアップを目指すこと等々、認知症ケアの進化のために日々研鑽すべき課題が見えてくる。そういうことを教えてくれる貴重な本である。




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