雲母書房
書籍詳細

「心いじり」の時代
危うさとからくりを読み解く

大森与利子 【著】
2,200円(税込:2,376円)
心理
四六判 / 上製
336頁
2013年12月10日
978-4-87672-326-3
4-87672-326-5



T部


第一章 日常化する「心いじり」
1 「自分探し」という呪縛
 @終わらない内閉志向
 A「小さな物語」での自己完結志向

2 合理化欲望と魔術志向
 @闇の排除
 Aセラピー言説の氾濫―新たな魔術的全能志向

第二章 「心いじり」に群がる諸相
1 「教育いじり」に群がる人々
 @教育のポピュリズム現象
 A教育現場の「再魔術化」現象
 B商品としての公教育―教育のアウトソーシング(外部委託)
 C大学の「マクドナルド化」―学問のポピュリズム

2 新自由主義の「心いじり」
 @「包摂と排除」の構造
 A「こころ主義」の席巻と世論形成(時代の雰囲気作り)
 B作られていくストーリー

U部


第三章 危機を煽る社会―「心いじり」の危うさ
1 専門家依存を煽る社会
 @専門家の登場
 A作り出されるニーズ―消費者いじり

2 生活知の搾取
 @情報操作と情報封鎖
 A市民(生活者)のクライエント化

第四章 パターナリズムという陥穽
1 パターナリズムと自己委譲―《物言えぬ日常、物言わぬ日常》
 @攻撃者(権力者)への同一化―服従メカニズム
 Aパターナリズムの「心いじり」
 Bパターナリズムとナショナリズム

2 パターナリズムへの急進的逆襲―《物言う日常》
 @「理想化」からこき下ろしへ
 A「モンスター」登場―その不条理と条理

終章 「心いじり」の時代―その先へ
1 なぜ、「心いじり」に群がるのか
 @欲望としての「心いじり」―《語りたがる人々》
 A支援と善意の「心いじり」―正義の権力性

2 《癒し》ストーリーに覆われる社会
 @《癒し》への強迫的志向
 A《癒し》の全体主義的欲望
 B《癒し》言説を先導(煽動)する人々

3 「不知」の自覚
 @専門家の盲点・問題域
 A全能感という魅惑

4 「心いじり」を超えて―《物言える日常、物言う日常》
 @「痛みの個人化」を超えて
 A「自律的市民」に向けて
 B結び

評者:雨宮処凛(作家) (2014年2月9日 共同通信社配信)
「社会矛盾の目くらましに警鐘」
 1990年代から2000年代前半にかけて、当時の若者たちの間で流行した言葉がある。「アダルトチルドレン」だ。「機能不全家族の中で育ち、トラウマ(心的外傷)を抱えた私」という物語は、自らを苦しめる「生きづらさ」の原因を鮮やかに解き明かしてくれるものだった。
 「原因」がわかったことで救われた人も知っている。しかし、その一方で親を責め家族を責め、壮絶なバトルを繰り返した果てに命を絶った人も、少なからず知っている。
 振り返れば90年代後半から00年代にかけて、この国は「底が抜ける」ような大転換の中にあった。
 グローバリズムによる雇用不安、徹底した市場原理の台頭の中で、共同体や家族の関係も流動化し、同時に「自己責任」を内面化する言説が力を持ち始めた時期。就職できず、社会に居場所を得ることができず、自立生活も営めず、しかし、それらがすべて「おまえのせいだ」と言われ続けた若者たちの一部は、追いつめられた果てに、苦しみの原因を「アダルトチルドレン」という物語に求めたのだった。
 あれから約10年。気がつけば世の中には、依存症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、社会不安障害といった言葉があふれている。その間にスピリチュアルブームがあり、東日本大震災以降はさらに人々の「不安」が強まっている。そんな需要に応えるように「こころ産業」 「セラピー産業」は隆盛の一途をたどる。
 心理学の臨床経験が長い著者は、そんな現状に警鐘を鳴らす。それらの作法は時代や社会の構造的矛盾を覆い隠す、「視点ずらし」の「目くらまし」装置ではないのか、と。いくら「こころいじり」をしたところで、私たちを生きづらくさせている社会構造が変わらない限り、問題は「個人の心」に押し込められる。
 厚生労働省が指定する四大疾病に「精神疾患」が加えられて五大疾病となった今、あらためて「心」と「社会」を問う一冊だ。




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